「鬚(ひげ)」の始まり
漢字では鬚(したひげ、あごひげ)、髭(うわひげ、くちひげ)、髯(ほおひげ)と区別して使われている。
日本では古代から鬚をたくわえる風習があり、古墳から出土する埴輪に認められる。
『万葉集』十六に新田部親王に献上する歌として「勝間田の池は吾れ知る蓮(はちす)なし、しかいふ君が髭なきがごとし」とある。これは勝間田の池に蓮が沢山あるのを、わざと反対に言って、親王に大鬚があるのを風刺した戯歌である。
また、僧侶は鬚を剃ったので『万葉集』十六に「法師らがひげの剃り杭、馬つなぎ甚(いた)くな牽きそ法師なげかむ」とある。
室町時代になると、鬚は剛勇の程度を示す一種の象徴として尊ばれ、多髯は男の誇りとして褒め称え、これが無い者や少ない者は女面とか片輪面と言って賤しんだものである。すなわち、武家の戦話や雑説を記載した『見聞軍抄』に「見しは昔、関東にて髭男をおもてにくてい男といひてほむるゆゑに、諸侍髭を願ひたまへり、ほう髭をば鍾馗髭(しょうきひげ)とて諸人好む、鬼髭左右へわかれなどと古記にあるは、此の髭のことなり。あとさきの髭をば天神髭とて武家にはさのみ好みたまはず云々」とあり、髭を蓄えることは社会全般を風靡するようになった。
髭の種類には天神髭、チョビ髭、コルーマン髭、山羊髭、ドジョウ髭、チャップリン髭、関羽髭、鍾馗髭、無精髭などがある。私は専ら無精髭を得意としている。
病み上がり 剃るには惜しい 無精髭