「扇売り(おうぎうり)」の始まり
正月元旦に夜明けの若水を汲む音が聞こえるかと思う頃、お年玉に遣うための扇売りの声が「おうぎーおうぎー」と爽やかに聞こえてくる。江戸時代の風景の一つである。
『蜘蛛の糸巻』に「扇売といふものありけり。扇の形したる箱を、いくつも重ねたるを肩に載(お)き、あふぎあふぎと呼びあるく、その姿(なり)は、染浴衣(そめゆかた)に白き脚絆、じんじんばしょり、大方は媚(なまめ)きたる男、編笠を冠(かむ)り、呼び入るれば、地紙を見せ骨を見せ、其座にて折りて売るなり。これ正徳ごろの遺風なりしに、寛政にいたりて絶えたり」とあり、江戸時代中期より始まり、間もなく街から姿を消すようになった。
扇売り
画像の出典:江戸のシゴト事情(イラスト・いずみ朔庵)