「民間療法(みんかんりょうほう)」の話
永い間信じられ、行われてきた民間療法には、馬鹿に出来ない効果があるものもあるが、中にはそのために死を早めるものも多い。たとえば、永いこと喘息(ぜんそく)を患っていたある男は、他人の言葉を信じて青い雨蛙を捕まえて生きたまま鵜呑みにし、また、ある男は肺病で死んだ娘を火葬し、持ち帰った骨壺の中から黒焦げになった脳の部分を選りだして、家族に分配して飲み下した。「お前死んでも他所(よそ)へはやらじ、焼いて粉にして酒で飲む」という情愛からではなく、今後、みんなが肺病にならないようにとの予防のためであった。
さらに、渡辺房吉博士から神経癩(しんけいらい)と診断された患者が2ヶ月後に葉書をよこし「ある人の話にヘビの中毒だろうと申され、小生も痛み出す3・4日前に生ヘビを一匹食べましたので、それだと思いナメクジを沢山食べて毒を下し、全快いたしましたのでご安心下さい」とあったが、まもなくナメグジを食べたために死んでしまったという。
また、胆石症の患者は黄金(きん)を食べると胆石が溶けて出ると伝えられ、ある患者には真珠やダイヤモンドが効能があると言われているが、何時の時代でも黄金の万能薬の効き目はてきめんであり、これも少しずつやっているうちは懐も暖まって腹の具合も良いけれど、これが慢性になり過食すれば、たちまち中毒症状を起こし、再び吐き出さなければならなくなり、さらに悪くすると鉄窓のある病院に収容されてしまう。
古い七輪の壊れたものを煎じて、その上澄みを飲めば悪阻(つわり)に効くと言われ、どこまで信じて良いか判らないが、支那では防虫剤の樟脳(しょうのう)を犬に喰わせ、その犬の小便から心臓の妙薬を作ったと言い、さらに面白いのは熱冷ましの妙薬「人中黄」というのは、旧暦の12月に青竹の両端に節を残して切った竹筒を用意し、皮を剥いで糞壷に入れておき、その中に溜まった液体のことであった。
ある婆さんは、胃腸病の処方箋をもらい、それから一週間ほど経って医者にあった時、そのお礼の言葉が変なので、良く尋ねてみると、薬は買わないで書いてもらった処方箋をそのまま水で飲んだことが判り、さすがの医者もびっくりしたという。信じれば塵紙も霊薬となる。